「ログインのパスワード、正直どれも同じものを使い回している」——そう心の中で思い当たった方は、決して少なくないはずです。ネットバンキング、クラウド会計、通販サイトの管理画面、SNS。少人数で仕事を回していると、アカウント(サービスを利用するための利用者登録情報)は気づかないうちに増えていきます。覚えきれないから、つい同じパスワードにしてしまう。とても自然な流れです。
しかし、この「使い回し」こそが、実は最も被害につながりやすい入り口だと言われています。今回は、ウイルス対策ソフトの話ではなく、アカウントの守り方という切り口で、今日から手をつけられる具体策を整理してみます。
なぜ「使い回し」が危ないのか
パスワードが漏れる原因は、自社が攻撃されることだけではありません。よくあるのは、まったく別のサービスから情報が流出するケースです。
たとえば、数年前に登録した通販サイトから、メールアドレスとパスワードの組み合わせが流出したとします。攻撃する側は、その組み合わせを使って、銀行やクラウドサービスへ片っ端からログインを試します。同じパスワードを使い回していれば、1か所の流出が全アカウントの流出と同じ意味になってしまうのです。
従業員5名の工務店を営むAさんは、通販サイトと同じパスワードをフリーメールにも設定していました。メールを乗っ取られた結果、取引先に「振込先が変更になりました」という偽のメールが送られる寸前だったといいます。ウイルスに感染したわけでも、怪しいサイトを開いたわけでもありません。ただ、同じパスワードを使っていただけでした。
優先順位をつけて守る
とはいえ、すべてのアカウントを一度に見直すのは現実的ではありません。まずは「乗っ取られたら一番困る順」に並べ替えることをおすすめします。
- メール(他のサービスのパスワード再発行がここに届くため、実は最重要)
- お金に直結するもの(ネットバンキング、クラウド会計、決済サービス)
- お客様の情報が入っているもの(予約システム、顧客管理、ネットショップの管理画面)
- 社外に発信するもの(SNS、ホームページの管理画面)
この上位2つだけでも、他とは絶対に違うパスワードに変えておく。それだけで危険度は大きく下がります。全部を完璧にするより、重要なものから手をつけるほうが確実です。
「二段階認証」を先に入れる
パスワードを複雑にすること以上に効果が高いのが、二段階認証(ログイン時に、パスワードに加えてスマホに届く確認コードなどを入力する仕組み)です。
これを設定しておくと、万が一パスワードが漏れても、犯人の手元にはあなたのスマホがないためログインできません。多くのサービスで無料で使え、設定画面の「セキュリティ」という項目から10分ほどで完了します。
一人でネットショップを運営しているBさんは、「ログインのたびにひと手間増えるのが面倒」と後回しにしていましたが、実際に入れてみると追加入力を求められるのは新しい端末で初めてログインするときだけ。日々の負担はほとんどなかったそうです。
パスワードの管理そのものが不安な場合は、パスワード管理ツール(複数のパスワードを暗号化して保管し、自動で入力してくれるソフト)を使う方法もあります。無料で使えるものも多く、「覚えられないから使い回す」という根本的な悩みを解消できます。
意外な盲点は「人の入れ替わり」
もうひとつ見落としがちなのが、スタッフが辞めたあとのアカウントです。
アルバイトの方に店舗SNSの投稿を任せていた、前任者のパソコンにパスワードが保存されたままになっている、共有アカウントのパスワードを全員が知っている——こうした状態は、悪意の有無にかかわらずリスクになります。退職や担当交代のタイミングで、該当するパスワードを変更するというルールを決めておきましょう。
あわせて、「どのサービスを、誰が、何のために使っているか」を紙一枚にまとめておくだけでも、棚卸しがぐっと楽になります。使っていないサービスが見つかれば、解約してコスト削減にもつながります。
まとめ
アカウントの管理は、高価な機器やソフトを買う話ではありません。今日できるのは次の3つです。
- メールと、お金に関わるサービスのパスワードだけは別々のものにする
- その2つに二段階認証を設定する
- 担当者が変わったらパスワードを変える、とルール化する
事故が起きてから取引先へ説明に回る労力に比べれば、今日の30分は驚くほど小さな投資です。まずはメールの設定画面を開くところから、ぜひ始めてみてください。
